2009/05/11

「おてかず」?

ある場面で「おてかずですが…」という言葉を聞いた。一瞬なんのことだろうかと思ったが「お手数」のことだとすぐに気付いた。「お手数」は「おてすう」と読むものだとばかり思っていたので軽い驚きを感じたが、考えてみれば「手数」を「てかず」と読むことに何の不思議もない。

しかし、帰宅してからも「おてかず」という読み方がどうにも気になって頭から離れないので辞書で調べてみた。

大辞林』より。
て すう【手数】
  1. それをするのに必要な動作・細工などの数。また、それが多くて面倒なこと。てかず。「—ばかりかかる仕事」
  2. (「お手数をかけます」などの形で)自分のために労力を尽くしてくれた相手に対して感謝する気持ちを表す。「お手数をかけてすみません」
    〔「お手数ですが」の形で、相手に何らかの依頼を願い出る場合にも用いる。「お—ですが、書類の件よろしくお願いいたします」〕

て かず【手数】
  1. ある事をするための労力。手間。てすう。「—のかからない仕事」
  2. 碁・将棋などの手の数。てすう。「—が少ない」
  3. ボクシングで手を出す回数。
大辞林』によると「おてすう」と読むのが適当だということになりそうだ。

一方『大辞泉』だと次のようになる。
て‐すう【手数】
  1. それをするのに要する動作•作業などの数。てかず。「—のかかる料理」
  2. 他人のためにことさらにかける手間。てかず。「お—でもよろしく」「お—をかけて恐縮です」
→手数(てかず)・手間・造作

て‐かず【手数】
  1. 「てすう(手数)1.」に同じ。「—をかけた料理」
  2. 「てすう(手数)2.」に同じ。「お—ですが、よろしくお願いします」
  3. 囲碁・将棋などで、ある手段を施すのに必要な着手の数。また攻め合いで、石を打ち上げるために詰めなければならない駄目の数。「—を読む」「白のほうが—が長い」
  4. ボクシングで、パンチを出す度数。「—は多いが有効打が少ない」
→手数(てすう)・手間・造作・世話
大辞泉』では「おてすう」と「おてかず」を特に区別していない。

NHKのことばおじさんは次のように解説している。
では、『お手数をおかけしました』これは、何と読みますか?
「おてすう」?それとも「おてかず」? 実は本来の読み方は「おてかず」で、昭和に入ってから「おてすう」と読む人が多くなったようです。今では「おてすう」が多数ですよね。

本来は「おてかず」と読むことについての背景が記されていないのが残念である。なお、古語辞典にもあたってみたが「てすう」も「てかず」も載っていなかった。

ともあれ、これで1勝1敗1分け(?)となり、どう読んだらよいのか結局よくわからない。ここで強引に私なりの読み方を決めてしまいたいと思う。

「お手数」は「おてかず」と読むことにする。理由は「おてすう」だと湯桶読みになってしまうから。

追記(2009/05/12)

もう少し調べてみた。『明鏡国語辞典』では次のように定められている。
て-すう【手数】
  1. 動作・作業などにかかる労力(の度合い)。てかず。「報告書作成の—を省いて口頭で説明する」「—のかかる仕事」「—料」
  2. 《「お—をかける」「お—です」などの形で》相手に協力を依頼するときやそれに感謝するときに、ねぎらいの気持ちでいいうことば。「お—をかけてすみません」「お—ですが手伝っていただけませんか」

て-かず【てかず】
  1. てすう。「お—をかけて恐縮です」
  2. 囲碁・将棋で、打つ手または指す手の数。
  3. ボクシングで、パンチを出す回数。

類語辞典の『類語国語辞典』だとこうなる。
【手数(てすう)】
—の いらない仕事。—料を取る ○手間が掛かること。面倒なこと。

【手数(てかず)】
お—を掛けます。いいえ、大した—は掛かりません ○面倒なこと。「てすう」とも

この『類語国語辞典』は昭和60年初版発行のものだ。

家にあった古い『広辞苑』(第2版補訂版、昭和51年第1刷発行)も引いてみた。
て-かず【手数】
  1. それに施すべき手段の数。てすう。
  2. その物事または他人のために特に力を尽くすこと。骨折り。めんどう。「お—をかけます」

て-すう【手数】
「てかず」に同じ。
こうしてみると、ことばおじさんの「実は本来の読み方は『おてかず』で、昭和に入ってから「おてすう」と読む人が多くなったようです」という解説はどうも当たっているようだ。

というわけで(?)、私は「お手数」は「おてかず」と読むことにした。ちなみに、辞書は少し古い方がよいかもしれないという点も勉強になった。